研究概要 |
精子が卵子内に注入されたのち、精子頭部が膨化し雄性前核を形成する。卵子も活性化され雌性前核を形成する。この二つの前核が融合し、分裂が始まる。この融合する過程をバイパスできるかどうか検討するため、以下の実験を行った。 冷凍保存しておいたラットの精子を、ラット卵子に注入した。その後卵子内から精子を取り出し、頭部が膨化しているもののみ、尾部を切断し膨化頭部と中心体を含む尾部に分けた。次にラット卵子を電気刺激で活性化し雌性前核の形成を促す。活性化された(前核が形成された卵子)卵子の前核内に、さきの精子の膨化頭部を顕微鏡下に注入し、併せて精子の尾部を前核の周囲に注入する。106時間培養し、分割卵子、胚盤胞に分化したものの割り合いを評価した。78.1%(86/110)の卵子が活性化され,37.2%が分割した(32/86)。胚盤胞まで分化したものは1.4%(11/86)であった。 以上より雌性前核内に精子の頭部を注入することでも、受精、胚の発育が可能であることが示された。さらに最適な卵子刺激法は何かについて検討した。 電気による刺激と(A群),機械的刺激と薬剤による刺激(B群)を組み合わせた者を比較した。機械的刺激は卵細胞質内に注入ピペットを刺入し細胞質を5-6回にわたって強く吸引しもどすことをくり返した。薬剤による刺激はカルシウムアイオノフォア10μMを卵子培養液に加えた。精子は両群共に培養し頭部が膨化したもののみを用いた。A群,B群の活性化された卵子,受精卵,分割卵,胚盤胞の割合はそれぞれ,60.0%vs30.0%,47.85vs14.4%,32.25vs6.7%,1.2%vs0%であった。このことより雄性配偶子核を雌性前核内に注入する場合は電気刺激による卵子の活性化が最もよい方法であると思われた。
|