研究概要 |
ヒトにおいて体外受精の際に得られる顆粒膜細胞のアポトーシス小体出現率が低いほど卵の質が良好(妊娠に至りやすい)なことを報告して評価を得てきた.アポトーシス関連因子分析を細胞膜および細胞質内伝達情報機構との関連を探ることで,新しい治療薬や治療法が開発される可能性がある.排卵直前成熟雌マウス(B6C3系)の卵巣を観察分析し,閉鎖卵胞におけるアポトーシスの存在を確認した.その後,アポトーシスの伝達機構の一つであるFas-Fasリガンドでの検討を行った.Fas抗原は通常細胞膜上にあり,Fasリガンドと結合するとそこから細胞内にシグナルが伝達され,細胞核のアポトーシスへの動きが始まるとされる.マウス卵胞では,卵胞の中心的な存在である卵の細胞膜には,閉鎖卵胞においてもFas抗原は免疫組織学的方法で検出されなかった.一方,顆粒膜細胞の細胞膜上には,閉鎖卵胞では強染された.また,Fasリガンドも同様に強染した.そのことは,成熟卵巣での卵胞閉鎖機序が顆粒膜細胞側から起こることを示唆する.卵胞組織上のin situ hybridizationでは,顆粒膜細胞が自らFas抗原を提示してはいるが,Fasリガンドは卵の方から産生されていることを示唆した.つまり,卵胞の運命を握っているのが,発育卵巣でも成熟卵巣でも実は卵であることを示唆している.顆粒膜細胞の細胞内シグナル伝達機構は,プロテインC kinaseを介するが,それをブロックしてもアポトーシスを起こすものも認められ;Fas-Fasリガンド以外の細胞膜上のシグナル伝達系の存在も初めて示唆された.その後の研究で,チロシンキナーゼの系が係わっていることも判明したが,ShcからRas-MAPキナーゼへの典型的なシグナル伝達経路以外に,IRS1/2からの経路とPI3-キナーゼ-AKT経路やSrc-STAT活性化経路も解析が進められており明らかに同定されたものからシグナル伝達ブロックによってアポトーシスへの関与を同定していく予定である.
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