研究概要 |
内分泌かく乱物質(Endocrine Disrupting Chemicals : EDC),いわゆる環境ホルモンは野生生物における生殖異常の原因と考えられ,ヒトにおける精子数の減少,生殖器異常,経世代的障害の原因物質と考えられている.EDCの多くは女性ホルモン特にエストロゲン様の作用をもつことが知られているが,その作用機序の詳細は不明である.周産期においてエストロゲンは妊娠の維持や胎児の発育,分化に重要な役割を果たしており,EDCのエストロゲン様作用が流早産や胎児異常の原因の一つとなっていると考えられる.一方,近年新しいEstrogen Receptor(ER-_β)がcloningされ,従来から知られているEstrogen Receptor(ER-_α)とは組織特異性が異なり,それぞれが異なる役割を持っていると考えられている.今回の研究では,まず,いくつかのEDCがER-_αとER-_βを介した転写を誘導するとともに,これらのEDCはER-_αやER-_βと核内受容体転写制御に重要なcoactivator蛋白,SRC-1,RIP140,TRAP220,SUG1との結合を1誘導したことからEDCを介した転写誘導もnatural ligandであるエストロゲンなどと同様にcoactivatorが関与していると考えられた.次にEDCの重要なtarget receptorであるestrogen receptors(ERs)の発現をRT-PCR法にて検討したがER-α及びβの発現は組織特異性があり,実験モデルや組織により発現量の変化に違いを認めた.今後,それぞれのモデルでの更なる詳細な検討が必要と考えられた.更にEDCの投与によりER発現細胞でのER発現が増加したことからマウスにEDCを投与して各組織でのER発現量への影響を検討したところ,EDCは,マウス排卵周期においてそのターゲット受容体の一つであるER及びcoactivatorの発現に影響を及ぼしていると考えられた.今後,妊娠マウスを用いてEDCの胎仔胎盤系への影響について検討する予定である.
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