研究概要 |
1)血管新生の分子細胞生物学:培養ヒト皮膚毛細血管由来血管内皮細胞を用いた。血管内皮細胞機能に影響を与えうる細胞として培養網膜毛細血管由来周皮細胞も用いた。 (a)血管内皮細胞の細胞運動に関与する細胞外基質産生の制御は血管新生のプロセス制御に重要である。そのメカニズムについて細胞内シグナル伝達を検討した。細胞外基質(ヒアルロナン)の産生酵素の発現制御を検討した。毛細血管内皮細胞は合成酵素(HAS1,HAS2,HAS3)の遺伝子を発現しており、特にHAS2の発現が多かった。TGF-βとPDGF-BBは発現の上昇効果を示し、特にTGF-βの作用が強かった。 (b)周皮細胞機能の解析:周皮細胞の増殖制御に対するサイトカインネットワークについて検討したところ、増殖抑制作用をもつTGF-β2と増殖促進作用をもつプラスミンは相互作用を及ぼしネットワークを形成していた。 2)臨床的な検討:臨床疫学的な検討より、網膜症進展にともなう視力低下の主な原因は増殖網膜症への進行であり、網膜症進行抑制の治療薬の開発の重要性が示された。血管新生がみられる増殖糖尿病網膜症の手術材料での各種のサイトカインの発現について検討した。増殖糖尿病網膜症での血管新生促進因子としてはVEGF,PIGF,IL-6,TGF-β,TNFなどの上昇がみられた。VEGF,PIGFは網膜虚血と関連し、血管新生に関与していた。TGF-βは硝子体出血に関与し、IL-6は血糖コントロールに関連することが示唆された。血管新生抑制因子としてactivn A,PF-4、エンドスタチンの糖尿病眼における発現がみられた。activn Aは血管内皮細胞の増殖抑制作用をもち、生体内でも血管新生に抑制的に作用する。この因子が血管新生、硝子体出血などの増殖糖尿病網膜症治療薬としての可能性が示唆された。
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