研究概要 |
背景:硝子体手術の術後合併症として周辺視野欠損が注目されているが、この合併症の発生機序は解明したとはいえない。本研究では液空気置換手技に注目して、次のような検討を行った。(1)液空気置換によって傷害された網膜を生体観察することが可能か。(2)生体観察手技で液空気置換による網膜障害の程度を把握し、免疫組織学的あるいは電子顕微鏡的観察と比較検討する。(3)臨床例における液空気置換による網膜障害の予防法を考案する。 方法:有色家兎の片眼にC3F8ガス(0.2cc)を注入し、30日後に水晶体切除、硝子体手術、後部硝子体剥離作製、液空気置換を施行した。液空気置換には空気をフィルターし50mmHg灌流圧を使用し、灌流時間条件を変更し(1,3,5,10min)検討した。対照には液空気置換以外の手術を施行した眼を使用した。液空気置換後、0.4%トリパンブルー染色液を硝子体腔に注入、続いて灌流液で灌流洗浄し、手術顕微鏡下で網膜染色性を観察した。その後、眼球を摘出固定し、染色部位について、免疫組織学的検討、電子顕微鏡学的検討を施行した。視野欠損の合併例の臨床的特徴を整理し、上記実験が反映する結果との相関性を検討した。 結果;液空気置換1,3,5,10minいずれの灌流条件の眼においても、灌流針の対側網膜がトリパンブルーによる境界明瞭な染色が観察された。染色性は灌流時間が長いほど増加した。対照眼では全く染色されなからた。染色した網膜を電子顕微鏡で観察すると、内境界膜、神経節細胞、ミューラー細胞の内側障害がみられた。障害程度は灌流時間が長いほど重篤であった。免疫組織学的検討では、空気灌流1分後に直ちに眼球摘出した網膜においても障害部位のGFAP活性化がみられた。多くの臨床例での灌流時間や灌流圧の特徴あるいは組織学的検討所見が本実験結果から説明できた。 結論:(1)液空気置換によって網膜内層に機械的な網膜障害が生じえること、(2)トリパンブルー生体染色はこの障害を把握するのに有用で、臨床応用の可能性があること、(3)液空気置換時の灌流圧と灌流時間を減少することが重要であることが示唆された。
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