研究概要 |
エナメル蛋白であるアメロゲニンやシースプロテイン(シースリン,アメロブラスチン,アメリン)は,mRNAのスプライシングによって同一の遺伝子から異なる分子型が生じる。本研究では合成ペプチドを用いて異なる分子型を区別して認識できる抗体を作成し,エナメル蛋白の分子多様性の意義を解明することを試みた。アメロゲニンについては数種類の抗体を作成したが,いずれも特定の分子型を認識しているとはいえなかった。シースプロテインについては,同一の遺伝子から生じる2種類の分子型を区別して認識できると考えられる抗体の作成に成功し,これらの抗体を用いた免疫組織化学と免疫化学により以下の結果を得た。 1.ラット切歯の基質形成期エナメル器と成熟期エナメル器を免疫化学で検索した結果,基質形成期と成熟期でアメロブラスチンは分子量56kDa,アメリンは分子量54kDaのコア蛋白として合成されるが,成熟期では54kDa蛋白の染色が56kDa蛋白の染色に比べて明らかに弱かった。この結果,成熟期ではアメリンの合成量がアメロブラスチンに比較して低下していると考えられた。 2.ラット切歯の基質形成期幼若エナメル質と成熟期幼若エナメル質を免疫組織化学と免疫化学で検索した結果,アメロブラスチンとアメリンの分解様式および局在には明らかな差は認められなかったが,アメリンがアメロブラスチンよりも早く分解する可能性が示唆された。 3.ブタ乳臼歯歯胚の基質形成期から成熟期初期にかけて幼若エナメル質を免疫組織化学で検索した結果,基質形成期ではエナメル質表層で短いシースリンを認識する抗体がより鮮明に小柱鞘を染色した。また,移行期から成熟期初期にかけて短いシースリンを認識する抗体の染色が,エナメル質表層でより早く弱くなった。この結果,ブタ歯胚では長いシースリンに比べて短いシースリンの分解がより早く進行すると考えられた。
|