研究概要 |
我々は蛋白質脱リン酸化と骨芽細胞のアポトーシスに注目し、蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤でかつ発癌のブロモーターであるオカダ酸とカリクリンAを用いて一連の研究を進めてきた。骨芽細胞の性質を有するヒト骨肉腫細胞、Saos-2とMG63及びマウス骨芽細胞、MC3T3-E1をオカダ酸とカリクリンAで処理すると、これらの細胞はインビトロで細胞内のPP1とPP2Aを阻害する濃度でアポトーシスを起こして死滅する。オカダ酸により誘導されるMG63細胞のアポトーシスは蛋白合成阻害剤、サイクロヘキシミド、ピューロマイシン、とRNA合成阻害剤アクチノマイシンDにより抑制されるが、オカダ酸によるSaos-2細胞のアポトーシスはこれらの阻害剤によって抑制されない(Morimoto et al.1999)。このことは、細胞の種類により、アポトーシス誘導経路、およびその実行過程に差があることを意味する。PP1はそのアイソザイムの種類により、PP1α,PP1γ-1,PP1γ-2,PP1δに分類される。骨芽細胞におけるこれらの酵素の局在は特異的で、特に、PP1δの発現はNucleolar Organizer Regions(NORs)の細胞内局在と酷似する。アポトーシスをおこしていない正常細胞では、核小体にPP1δの局在と類似するAgNORsが検出されるが、アポトーシス細胞では、この構造物は分解されて検出されない。アポトーシス細胞では分子量100kDaの蛋白の発現が減少し、逆に分子量80kDaの蛋白が新たに出現し、その発現量は増加した。この分子量100kDaの蛋白はNORsの構成蛋白ニュークレオリン、分子量80kDaの蛋白はニュークレオリンの分解産物である(Morimoto et al.,in press)。NORsは核小体に局在し、その構成蛋白の一部がニュークレオリンである。PP1δとニュークレオリンの細胞内局在は完全に一致し、抗-PP1δにより免疫沈殿されるMG63の細胞抽出液にニュークレオリンが存在する。以上の所見はPP1δとニュークレオリンは核小体内で互いに結合し、PP1δはニュークレオリンを脱リン酸化する酵素であることを示唆する(Morimoto et al,submitted)。
|