研究概要 |
哺乳類においてはフリーの鉄は血清中のトランスフェリンや粘膜表面のラクトフェリンと結合し即座に肝臓に運搬されるので,その生体内濃度は10^<-18>M程度といわれ,感染した細菌の発育に必要な濃度にはるかに及ばない.したがって細菌には鉄キレート機構としてシデロフォアシステムが備わっている.しかしPorphyromonas gingivalisをはじめ歯周病原菌ではシデロフォアが欠損しており別の鉄獲得機構が存在するものと考えられる.われわれはヘモグロビンからヘムを経由して鉄を獲得しているのではないかとの仮説を立てP.gingivalisからヘモグロビン結合蛋白を分離し,これが鉄獲得に働いていることを報告している.この研究では他のヘム蛋白であるミオグロビンも鉄源になることを明らかにした. ミオグロビンはP.gingivalisのエンベロープと可逆的にpH依存様式で結合する.すなわち低pH(中性以下)で結合し高pH(中性以上)では解離する.1mgのエンベロープに結合するミオグロビンは1.4μgで,pH5.0での解離乗数は2.2×10^<-10>Mであった.ドットブロット法によりミオグロビンはヘモグロビン結合蛋白とも結合することが分かったが,その結合量はヘモグロビンの50%であった.ミオグロビンをエンベロープをデタージェントで可溶化した粗抽出物(アルギニン特異的プロテアーゼとリジン特異的プロテアーゼを含む)で処理したものをゲル濾過した画分に鉄欠乏条件下でのP.gingivalisの発育をサポートするものが見つかった.このことはミオグロビンを鉄源として利用する過程でプロテアーゼが関与していることを示唆している.
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