研究概要 |
歯周病の病変部に形成される歯周ポケット中には,酸素分圧が低く嫌気的環境にあることから,多種多様の嫌気性細菌が定着・増殖する.一般に,組織中で増殖した細菌は毒素や酵素などを産生して組織に損傷を与える.歯周病細菌は様々な歯周病原因子を有し,歯周組織に損傷を与えている.歯周病細菌のなかで,Actinobacillus actinomycetemcomitansは組織を障害する数種類の毒素を産生することが知られている.近年,A.actinomycetemcomitansが産生するcytolethal distending toxin(CDT)という毒素の性状が報告された.一方,我々は,昨年までの研究でA.actinomycetemcomintansがCDTとは異なる毒素を産生していることを見出し,その生物学的性状を調べ,細胞死(アポトーシス)誘導するタンパク毒素であることを明らかにした.まず,この毒素は培養上清中に存在し,タンパク分解酵素処理で失活することから,タンパク外毒素であると考えて精製を開始した.そして,今回の研究プロジェクトでは,この毒素の部分精製標品を用いて,生物学的性状とアポトーシス誘導機構について解析した.あわせて,CDTの増殖抑制効果についても分子生物学的手法を用いて解析した.その結果,新規毒素とCDTで誘導されるG2期での細胞周期の停止には,サイクリン依存性キナーゼを阻害するp21タンパクとガン抑制因子であるp53タンパクの亢進が認められた.さらに,ドミナントネガティブp53を過剰発現させた細胞にCDTを作用させたところ,p21の発現とG2期の細胞周期の停止が認められた.これらのことから,新規毒素とCDTによる細胞周期の停止機構にp21は関与しているものの,p53は関わっていない可能性が示唆された.一方,アポトーシス誘導ということでは,CDTと新規毒素は異なる作用を示すことから考えて,別の経路でアポトーシスが誘導されている可能性が高い.今回の研究期間中にはこの点を明らかにすることができなかったが,今後,この点について詳細に検討していくつもりである.
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