研究概要 |
生体材料と細胞の接着や表面における骨形成に関しては不明な点が多い.これらを解明する目的で,以下の研究を行った. 生体材料の材質がヒト骨芽細胞の材料表面への初期接着に与える影響を検索した.血清添加培地を使用した場合は,ヒト骨芽細胞様細胞であるSaos2のハイドロキシアパタイト(HAP)への接着率は,チタン(Ti)やヴァナジウム(V)に比較し高かったが,無血清培地では,HAPとTiの間には接着率に差が認められなかった.この結果から,血清のタンパクが生体材料へのSaos2の接着に影響を与えるものと考え,骨の非コラーゲン性のタンパクであり,細胞接着タンパクでもあるオステオポンチンをSaos2に遺伝子導入し,Saos2のTiへの接着能にどのような影響を与えるかを検索した.ヒトオステオポンチンcDNAのC末端にFLAG tagを付与し,レトロウィルスベクター(pBabe-puro)にサブクローニングした.パーッケージング細胞に導入後,レトロウィルスを回収した.このレトロウィルスをSaos2に感染させ,puromycinを用いてselectionを行い,OP-FLAG発現Saos2株をクローニングした(Saos2-OP).p-Babe-puroのみをmock infectionし,selectionしたSaos2-puroをコントロールとして用いた.RT-PCRにてオステオポンチンのmRNAがSaos2-OPのみに発現されていること,またWestern blottingでFLAG tagを含むオステオポンチンの発現がSaos2-OPのみに発現されていることを確認した.これらの3種の細胞を用いて,ポリスチレンとTiに対する接着試験と走査電顕による観察を行った.接着率は,細胞播種6時間後では,3種の細胞間に有意差は認められなかったが,12時間後,24時間後では,ポリスチレン,TiともにSaos2-OPの接着率は,コントロールであるSaos2及びSaos2-puroに比較し有意に高い値を示した.また走査電顕による観察において,Saos2-OPは,Saos2に比較し,小さく厚くなる傾向を示し,表面には顆粒状の構造が認められた.以上の結果から,オステオポンチンの遺伝子導入を行うことにより,in vitroにおいてSaos2の接着能を高めることが示された.
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