研究概要 |
楽器演奏が不正咬合や歯列不正の原因となり得ることは広く知られているが,顎関節症の原因となるか否かについては,バイオリンやビオラの演奏家の事例が報告されている以外には,必ずしも明らかでない. そこで本研究では,平成11年から14年までの4年間にわたり徳島文理大学音楽学部(延べ1834人,以下,音楽学部)徳島大学医学部栄養学科と徳島文理大学家政学部管理栄養学科(延べ2736人),同大学家政学部児童学科と家政学科(延べ2629人),徳島大学歯学部(延べ1043人)の4グループの1〜4年生を対象に,演奏する楽器の種類と顎関節症の主要3徴候(関節雑音,関節部落痛,開ロ障害),顎関節症の随伴症状(耳症状,頭痛,肩こり)と各種の既往歴(顎関節治療,咀嚼習慣,顎顔面への外傷,歯並びや噛み合わせ,歯科矯正治療,ストレス,Bruxism)の有無についてアンケート調査行い,楽器演奏と顎関節症の関連について検討した. アンケート結果の分析に際しては,各年次毎の調査資料を横断的調査資料とし,調査対象のうち4年間連続して調査し得た学生の資料を縦断的調査資料としたさらに,音楽学部女子についてはその専攻によって声楽や管楽器などの演奏に際して口を使用するロ使用群(延べ422人)と,鍵盤楽器,弦楽器や打楽器など演奏に際して主に手を使用し,口を使用しない手使用群(延べ1164人)とに分けて検討した. その結果,音楽学部と歯学部を除く他学部との間で,また音楽学部女子では口使用群と手使用群との間で専攻楽器の違いによる顎関節症状の罹患率に大きな差はないことが明らかになったさらに,学年進行に伴う罹患率の変化も歯学部を除いては特には認められなかったこれは,楽器の累積演奏時間においてプロの演奏家と大学生では非常に大きな差があり,大学生の段階ではいまだ発症に至っていないものと推察された.
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