研究概要 |
歯科用金合金は古くから補綴材料として重宝されてきた材料の一つである。種々の用途に使うことを可能とするために,熱処理による時効硬化を利用して材料の強さを制御している。その典型がタイプIV金合金である。それによると,時効初期に起こる結晶粒内でのCuAul型規則格子の生成が金合金に大きな硬化をもたらすことが確認されている。強さの面では十分に満足出来るものであるが,生成する規則相がマトリックスと結晶構造が異なるために熱処理中にかなりの変形が生じる。本研究においては補綴物の変形を可能な限り少なくするために,時効硬化に寄与する相の結晶構造に着目した。マトリックスと結晶構造が同じ規則格子を利用してその変形問題を解決すると共に,口腔環境下での時効硬化の可能性を求めて,基礎的実験を行ったものである。相変態挙動を電気抵抗測定,硬さ測定,X線回折実験ならびに電子顕微鏡観察により詳細に検討した。結論として,現在歯科臨床で応用されている金合金の問題点の一つであるCuAul(L1_0)規則格子による補綴物の変形に対して,マトリックスと結晶構造の同じL1_2規則格子のみを利用する新しい金合金は硬化の寄与が少ないために不適であることが明らかになった。しかしながら,CuAu_3(L1_2)とCuAul(L1_0)が共存する組成領域においてはタイプIV金合金に比べて硬化の面で若干劣るが,補綴物の変形を少なくする新合金の開発の可能性が認められた。二相共存領域合金における時効硬化に寄与する反応として下記の様相が確認された。これらの反応の違いは自由エネルギーの観点から解釈できた。 α(fcc)→CuAu_3(L1_2)→CuAu_3(L1_2)+CuAul(L1_0) α(fcc)→CuAul(L1_0)→CuAu_3(L1_2)+CuAul(L1_0)
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