研究概要 |
本研究の目的は,抗癌剤による口腔扁平上皮癌(SCC)のアポトーシス誘導の程度が化学療法の効果判定の指標になり得るかどうかを検討することである.アポトーシスの検出法であるTUNEL法は組織切片上でアポトーシスを捉える有用な方法ではあるが,組織の処理や試薬の反応条件等の要因により陽性細胞の発現頻度が大きく異なることが明らかとなり,まずTUNEL法の技術的な検討を行った.その結果新鮮凍結組織切片において再現性のある条件を見出すことができた.次に,SCCの術前化学療法前後の組織切片上で,TUNEL法を用いてアポトーシスの誘導という観点から化学療法の効果を検討した結果,TUNEL法のみによる検討では従来の大星・下里の分類を凌駕する結果は得られなかった.そこで,免疫組織化学的にssDNAを染色しアポトーシスを検出する抗ssDNA抗体法とTUNEL法の二つの方法によるアポトーシス細胞の検出を行い,両者の検出結果を比較検討してみた.その結果TUNEL法と抗ssDNA抗体法での検出結果に統計学的に有意な相関関係が認められたが,抗ssDNA抗体法の方がデータの再現性に優れている可能性が示され,化学療法の効果判定への応用が期待できる結果であった.一方,病理組織形態学的な指標では捉えられない,癌細胞の生物学的性状の変化に基づいた癌化学療法の効果判定法の開発という本研究の本来の主旨に沿って,化学療法によって癌細胞における発現に影響を及ぼされ,悪性度が変化する可能性がある細胞接着因子や増殖因子関連タンパク等の発現についても検討した.その結果,化学療法がSCCにおける発現に影響を及ぼし,SCCの性状を悪性度の低い方向に変化させていることを示す細胞マーカーとしてE-カドヘリン,αカテニン,ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン,Cyclin D1,Ki67等が有用であることが明らかとなった.
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