研究概要 |
口腔癌細胞でのG1期制御因子について,サイクリンE1(以下E1)の発現及びCdk2活性が低下している細胞(HSC-2)を見いだした.さらにE1のアンチセンスを導入しても増殖抑制はみられなかった.よってHSC-2ではE1の標的に異常を起こしている可能性がある.次に,Rb経路をみると,D1の発現は高く,p16により増殖が抑制されることから,サイクリンDはこの細胞の増殖に必須であると考えられた.E/Cdk2の標的として多くの分子があるが,Brm, NPATの異常は認めなかった.しかし,多くの癌でE/Cdk2の標的の一つである中心体の異常が報告されており今後も検索が必要と考えられる.また,E1/Cdk2活性は足場依存的増殖と相関し,E1の発現に伴い基質との接着が亢進する.HSC-2は頸部リンパ節転移巣から株化された細胞であり,基質との接着に異常があると推定され,今後インテグリンなどとの関連を検索したいと考えている.Rbと類似するp130はE/Cdk2の基質の一つであり,癌抑制遺伝子の可能性が示唆されている.口腔扁平上皮癌患者122名の検体において,p130の発現と臨床病期,頸部リンパ節転移,分化度との間に有意な相関が認められ,p130の高発現グループは一般に予後が良好であることがわかった.即ち,p130は口腔癌の予後因子である可能性が示唆された.またHAT活性を有し,転写活性化因子であるp300について,HOC313細胞で2つの変異を見いだした.この細胞ではTGF-βの増殖抑制能が失われているが,野性型p300を導入したところこの抑制能が回復した.即ち,p300は癌抑制遺伝子として機能することが明らかになった.以上,G1期制御因子の発現,基質のリン酸化が個々の口腔癌細胞によって異なることが明らかになり,このことが癌細胞の悪性度の差に反映している可能性がある.上記の成果は口腔癌治療に対する特異的分子標的薬の開発に寄与する可能性を示唆していると考えられる.
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