研究概要 |
口腔領域は周囲を骨に囲まれているという解剖学的特徴を持つことから悪性腫瘍の顎骨への浸潤・骨破壊はしばしば認められる.申請者は癌の骨内への浸潤増殖は破骨細胞性骨吸収に引き続いて起こることに着目し,破骨細胞を標的とした治療法を検討してきた.Matrix Metalloproteinase(MMPs)は癌の浸潤・転移を促進する重要な因子であるが,最近,破骨細胞の産生するMMP-9が破骨細胞性骨吸収に重要な役割を果たすことが明かとなった.本研究では,MMP-2,9を特異的に抑制する新規経口MMPs阻害剤(MMI-166)の骨代謝における薬理作用と腫瘍による骨浸潤・骨破壊に対する有効性について検討した. 1.in vitroにおけるMMI-166の骨代謝系への影響 1)MMI-166はマウス骨髄細胞の1α25(OH)_2D_3による破骨細胞形成には影響しなかった. 2)象牙質片吸収系において,MMI-166は成熟破骨細胞の骨吸収活性に影響を与えなかった. 2.in vitroにおけるMMI-166のMMPsへの影響 骨代謝系の単位である骨芽細胞,破骨細胞,これらの共存培養に対してMMI-166を作用させ回収した培養上清をGelatin ZymogramでMMPs産生を検討したが,特に影響はなく,MMI-166のこれらの細胞のMMPs産生への直接的影響は無いことがわかった. 3.in vivoにおけるMMI-166の腫瘍による骨浸潤・骨破壊に対する抑制効果の評価 MMPsを発現しないヒト乳癌細胞株MDA-231とMMP-2を強く産生するヒトメラノーマ細胞株A375をヌードマウスの左心腔内注射し誘発した骨転移モデルに対するMMI-166の治療効果をX線学的,組織計測学的に検索した.X線学的に骨破壊抑制効果は認められたが,転移腫瘍の増殖抑制効果は比較的少なく,またMMPs産生の程度の異なる癌細胞株MDA-231とA375で治療効果に大きな差は無かった.このことから,MMPs阻害により骨破壊が抑制されるものの骨・骨髄での腫瘍進展に癌の産生するMMPsの影響は比較的少ないことが示唆された.
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