研究概要 |
腫瘍の組織型の違いにより抗癌剤の抗腫瘍効果に差が生じることはよく知られている.われわれは血清成分によるcisplatin(CDDP)活性の阻害を除外するため無血清培養条件で5種類のヒト由来癌細胞のCDDPに対する感受性の違いについてその増殖を指標に検討した.無血清培養下,唾液腺腺癌細胞(SAC)HSYはCDDPに対して最も感受性が高かったが扁平上皮癌細胞(SCC)A431は最も低かった.CDDPはSACに対してSCCよりも高い殺細胞作用を示し,SCCはCDDPに対して比較的抵抗性を示すことがわかった.この感受性の差はCDDPの細胞内濃度の違いを反映しており,CDDPの殺細胞効果の違いは癌細胞の膜透過性の差であり,膜透過性の差は主に膜脂質組成の相違によるものと考え,無血清培養条件下に細胞膜の脂質組成について検討した.その結果SCCでは細胞膜脂質の70%以上がphospholipidであり残りはcholesterolであった.一方SACでは80%以上がtriglycerideとcholesterol esterを中心としたneutrallipidで残りの20%がphospholipidであった.SCCの中性脂質の低下は細胞膜の流動性の上昇を招き,SACに比較してCDDPの細胞内濃度の低下を示すものと考え,癌細胞膜の脂質組成の相違がCDDPの感受性を決定する主要因子と結論した.そこでSCCの細胞膜の脂質組成と同組成のCDDP封入リポソームを作製し,培養細胞に作用させて殺細胞効果について検討した結果,CDDP,pepleomycin(PEP)およびdoxorubicin(DXR)それぞれ単独あるいはこれらの抗癌剤とリポソーム混和物に比較してCDDP封入リポソームはSCCに対して殺細胞作用の増強を示したが,SACに対しては増強作用を示さないことがわかった.さらに上皮成長因子(EGF)受容体の単クローン抗体を装着したリポソームにてその増強作用を検討したがその著明な効果は得られなかった.また同腫瘍をマウスに移植しin vitroにおいて同様の検討を行った結果,SCCにおいて殺細胞効果の増強傾向を認めた.
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