研究概要 |
われわれの研究は浸潤・転移関連分子の発現に関与する転写因子の共通性に着目し,転写因子(AP-1,AP-2,SP-1,NF-Kappa B)と浸潤・転移能の獲得の関係を解明しようとするものである。われわれが樹立したヒト扁平上皮癌細胞株SQUU(同所性移植法にて,SQUU-Aは膨張性発育を示すが,脈管内浸潤や頚部リンパ節転移はなく(0/13匹),SQUU-Bは筋組織や脈管内浸潤を示し,頚部リンパ節転移を(86.7%,13/15匹)示す。)を用い検討した。 In vitroの浸潤能の評価(無刺激)にて,両癌細胞株には相違を認めたが,共に転写因子AP-1,AP-2,SP-1の転写活性を認め,NF-Kappa Bの転写活性はなかった。増殖因子(TNF-α,HGF,TGF-α,TGF-β,bFGF)やサイトカイン(IL-1α,IL-1β,IL-8,IL-12)の刺激により各癌細胞株の浸潤能が1番高かったのはTGF-αで,非転移性癌細胞株は0.92%,転移性癌細胞株は48.4%であり,刺激後両癌細胞の浸潤能の差がさらに大きくなった。興味深いことに,転移性癌細胞株では,刺激により細胞外マトリックス分解酵素(MMP)の転写因子であるAP-1の転写活性が高くなる増殖因子やサイトカインが多く,刺激後MMP-2の活性型が転移性癌細胞株には出現したが,転移能のない癌細胞株には認められなかった。また,転移性癌細胞株をTGF-βにて刺激した場合,MMP-2の産生量の増大とMMP-2の転写因子であるAP-2の転写活性の増大が認められた。これらより,AP-1やAP-2の転写活性の増大がMMPの産生や活性を促し,浸潤能を増強した可能性が考えられた。ただし,無刺激時にもAP-1やAP-2の転写活性はあったが浸潤能に差があったことを考えると,これだけでは不十分である。TNF-α,IL-1α,IL-1βの刺激によって,両癌細胞株に浸潤能やMMP-9の産生量およびMMP-9の転写因子であるNF-Kappa Bの転写活性が認められ,両癌細胞間には相違はなかった。以上より他の転写因子の解析が必要であると考え,解析を行っている。
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