研究概要 |
近年,仮骨延長法が下顎骨劣形成の骨体部延長や歯列弓拡大に臨床応用されてきた.術後の咬合形成には骨延長部への歯の矯正移動が必要となる.本研究の目的は,仮骨延長法によって得られた新生歯槽骨に骨形成が未熟な時期と成熟した時期に歯を移動し,移動歯や歯周組織に認められる変化を臨床的,X線学的,組織学的に比較し,骨延長部への歯の移動方法について検討することである. 実験動物として雄性ビーグル犬6頭を用い,全身麻酔下に両側下顎骨体骨切り術を施し,口腔内骨延長器を装着した.骨切り後1週間の安静期間をおいて,毎日1mmずつ10日間の延長を行った.延長終了後,歯の移動まで2週間待機した群(Group1)と12週間待機した群(Group2)を設定し,延長部の隣在歯である第3前臼歯を100g重の矯正力で新生骨へ移動した.Control群として.第2前臼歯を同時に遠心移動した.骨延長部と歯の移動様相を2週間毎にX線学的に評価すると同時に,歯の移動距離を実測した.歯の移動期間は12週間とした.歯の移動終了後,実験動物を灌流固定し,下顎骨を摘出して組織学的に評価した. 臨床所見では,Group1は他群と比較し歯の移動速度と移動量が有意に大きく,移動歯の遠心傾斜,挺出ならびに動揺を示した.X線所見では,Group1の歯根圧迫側に歯槽硬線の消失,辺縁性歯槽骨吸収と著しい歯根吸収が認められた.組織所見では,Controlの圧迫側歯根吸収はセメント質に限局していた.Group1とGroup2はともに象牙質に達する歯根吸収を示したが,Group1はGroup2より吸収の程度と範囲が著しく大きかった. 骨延長後の未熟な新生骨領域に歯を移動した場合,成熟した新生骨領域に移動する場合と比較して,著しい歯根吸収など臨床上不都合な変化が生じやすいことが示唆され,歯の移動方法に関する検討がさらに必要であると考えられた.
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