研究概要 |
これまで歯周病細菌Porphyromonas gingivalisとActinobacillus actinomycetemcomitansの歯周病における棲息および感染実態の研究はそれぞれの臨床菌株についてバイオタイプ,血清型,遺伝子型を調べることによって実施されてきた。細菌の分離培養に続いてのこれらの鑑別試験は時間もかかり繁雑であり,分析できる数も限られていた。そこで歯周病病巣におけるそれぞれの歯周病細菌の棲息実態さらには感染・伝播経路を明らかにするために研究を行ない,以下の成果を得た。 1)P.gingivalisとA.actinomycetemcomitansを検出し,型別できる菌特異マーカー遺伝子としてP.gingivalisでは外膜蛋白遺伝子およびA.actinomycetemcomitansでは線毛遺伝子を特定した。 2)P.gingivalisについては2つの外膜蛋白遺伝子型pga53型(1,219bpの増幅断片)または,pga67型(1,412bpの増幅遺伝子断片)として検出および型別できるpolymerase chain reaction(PCR)を確立した。また一方A.actinomycetemcomitansでは線毛遺伝子をPCR法によって増幅した後(約700bpの増幅遺伝子断片),制限酵素RsaIで消化して得られる遺伝子断片長多型(PCR-RFLP法)を基づいて4つの線毛遺伝子型に型別できる方法を確立した。 3)本研究で確立したそれぞれの歯周病細菌の検出・型別方法によって,歯周病患者の歯周ポケット病巣部位について,P.gingivalisとA.actinomycetemcomitansの棲息実態をそれぞれの遺伝子型を指標に調べたところ,ほとんどの歯周病患者はP.gingivalisとA.actinomycetemcomitansのどちらかひとつの遺伝子型に感染していることが判った。 4)2例の歯周病を発症している家族症例を分析したところ,母子では同一の遺伝子型のP.gingivalisとA.actinomycetemcomitansが検出され,母子間での歯周病細菌の感染・伝播の可能性が疑われた。
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