研究概要 |
免疫抑制剤サイクロスポリンA(CsA)の副作用として歯肉増殖症が知られている。炎症の有無に関係なく増殖症を誘発するCsA誘発性歯肉増殖症ラットモデルを用いて,歯肉結合識の主成分であるI型コラーゲンの合成と分解について検討した(J Cell Physiol182:351-358,2000)。発症機構として,線維芽細胞によるI型コラーゲンのファゴサイトーシス抑制を介した同線維の分解抑制の可能性を明らかにした。細胞膜上ではα2β1インテグリンがI型コラーゲンのレセプターとして存在し,ファゴサイトーシスにおいても同線維のインテグリンへの結合により細胞内へ取り込まれると考えられる。更にファゴサイトーシスは,抗α2インテグリン抗体による抑制がin vitroで報告されており,増殖症の発症過程においてもインテグリンの関与が考えられる。我々は,同ラットモデルを用いてα2インテグリンの発現を検討し,発症機構におけるα2インテグリンの役割を考察した。肉眼的歯肉増殖前のCsA投与8日目及び増殖後のCsA投与30日目の歯肉から,線維芽細胞を分離培養し以下の結果を得た。線維芽細胞のコラーゲンファゴサイトーシスは,CsA投与により8日目では対照群の1/8,30日では1/3に抑制され,細胞膜上でのα2インテグリン発現も蛍光顕微鏡上で抑制が確認された。更にFACS解析でCsA8日間投与群で25.1±6.1,対照群は50.7±6.3%となり,CsA30日間投与群では51.1±2.5,対照群で67.0±5.5となり,8日及び30日の双方においてCsA投与によりα2インテグリンの発現が抑制された。α2インテグリンmRNAの発現もRT-PCR法により抑制が認められ,以上の結果CsA誘発性歯肉増殖症はα2インテグリンを介するコラーゲンファゴサイトーシスの抑制により発現する可能性が示唆された。
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