研究概要 |
リパーゼ触媒下のアルコールの不斉エステル化反応は、極めて有用な不斉合成法の一つとして今日広く利用されている。我々は最近、エトキシビニルエステル(EVE)が、本反応に従来最も汎用されてきたビニルエルテル(VE)に代わる優れたエステル化剤になることを明らかにした。すなわち、EVEは、VEの副生成物による酵素の不活性化の解消、高い反応活性と立体選択性、種々のアシル基部分を有するEVEの簡便な合成などの特長を有する。本研究は、これらの特長を生かして、これまで未開拓の新しい高効率的なリパーゼ触媒不斉合成反応の開発を目的とし、以下の成果を得た。 1.従来のVE法では困難であった、プロキラル二置換-1,3-プロパンジオールの酵素的非対称化反応反応に極めて有効なエトキシビニル2-フロアートを開発した。本反応剤は、多くの基質に対し極めて高い反応性と不斉非対称化能を有し、更に、モノエステルからジエステルへの速度論的光学分割による光学純度の上昇、生成物の種々の条件での高い安定性などの特長を有している。この反応剤は、環状メソ-1,2-ジオールの非対称化にも効果的である。本法を応用し、抗癌活性フレデリカマイシンAアナログの両エナンチオマーの選択的不斉合成を行った。 2.共役不飽和カルボン酸から用時調製したEVEをリパーゼ触媒下にフルフリルアルコールと反応させて、エナンチオ選択的エステル化反応と生成物の分子内Diels-Alder(D.A.)反応のタンデム反応を開発した。本反応では、種々の基質から90%ee以上の7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプテン類が一挙に得られる。また、リパーゼが分子内D.A.反応を触媒し、速度論的光学分割を伴って生成物の光学純度を向上させるという前例の無い現象を見出した。
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