研究概要 |
本研究課題においてはinterleukin1受容体(以後,IL-1受容体)を介した誘導型NO合成酵素(iNOS)の遺伝子発現に関わる因子(TRAF6)のクローニングとその発現系の構築ならびにIL-1受容体を介したiNOS mRNAの分解抑制系に関する検討を行なった。TRAF6を形質導入したところ,IL-1によるiNOS遺伝子の発現は確かに増強されたものの,NF-κBの核内移行は逆に抑制された。この結果はこれまで知られてきた「IL-1受容体〜TRAF6〜NF-κB核内移行」という直列的シグナリングの概念からは説明できないものであり,研究の新たな可能性を示唆しているものと考えられる。すなわちIL-1受容体活性化によるiNOS遺伝子発現は,必ずしもNF-κBの活性化と一義的に連動していないという考え方である。また我々は今回初めてIL-1受容体が活性化されるとiNOS mRNAの分解抑制系が作動することを発見し,各種キナーゼ及びタンパク質の機能阻害薬のスクリーニングの結果,同分解抑制系にはMAPキナーゼ・ファミリーの一員であるp38が関与する可能性を見いだした。実際にIL-1を処置したところ,MAPキナーゼ・ファミリーの中でp38のみが特異的に活性化され,さらにp38を活性化させるためにp38のすぐ上流の酵素であるMKK6の恒常活性化型変異体を強制発現させたところ,受容体を刺激させずにiNOS mRNA分解を抑制できることを証明した。今回得られた成績は,IL-1受容体を介したiNOS発現系にiNOSmRNA分解抑制系という新しい経路が存在することを情報分子生物学の立場から明らかにしたものであり,新しい治療法及び新薬の開発に対する新規な標的分子の存在を示す可能性を拓いたものであると自負している。
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