研究概要 |
胃癌の腹膜転移の初期過程においては,インテグリンなどを介するがん細胞と腹膜との接着反応が重要であると考えられている.本研究では,VLA-3の発現が高い胃癌細胞が腹膜転移を起こしやすいという臨床成績に基づき,この機序の解明を目的として研究を行った. 1.cDNAトランスフェクトによりVLA-3を強制発現させた細胞を用いた腹膜への接着実験およびヒト胃癌細胞株の腹膜への接着の抗体による阻害実験から,癌細胞に発現するVLA-3が腹膜との接着を媒介することが示された. 2.SCIDマウス腹腔内への癌細胞移植実験では,VLA-3強制発現細胞が親株に比べ,腹膜および横隔膜に腫瘍形成をおこしやすく,またマウスの死亡率も高かった. 3.マウス腹膜と横隔膜におけるラミニンバリアントの発現をRT-PCR法によって分析したところ,VLA-3インテグリンに対する高親和性リガンドとして同定されたラミニン5および10/11の発現が確認され,腹膜側のリガンドとなっていることが推測された. 4.腹膜より単離した中皮細胞の単層培養系およびそれらの細胞の産生する細胞外マトリックスに対してVLA-3インテグリン依存性のがん細胞の接着が認められた. 以上の結果から,癌細胞表面でのVLA-3インテグリン発現増加により腹膜との接着反応が増強され、局所での腫瘍形成が促進されることがわかり,この分子が腹膜播種形成において重要な因子となっていることが推測された.
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