研究概要 |
薬物の生理活性発現はレセプタと化合物の結合による.その化合物の物理的(疎水性)の輸送能,化学的特性(立体性,および電子効果)によりレセプタとの結合が最適化されたとき最も有効となると考えられる.報告者の研究目的は,分子軌道法を用いた創薬の方法の確立である. [成果1]ニューラルネットワークの学習能力を用い,疎水性を分子の与える指数での表現を検討した結果,輸送の問題は従来の疎水性パラメータを用いずに,電荷と電荷間の距離で表現できることがわかった. レセプタ-薬物の相互作用は分子間相互作用である.われわれは化合物を,それを構成する原子を通して理解するが,レセプタは原子を識別するのではなく,分子が与える何らかの相互作用の因子を認識する.2つのアプローチすなわち(1)分子間相互作用を原子を通し理解する,(2)分子の波動関数の相互作用と見る方法を検討した. [成果2](1)の研究において系のエネルギーを厳密に原子と原子間のエネルギーに分割する公式をはじめて導入した.これをもとに,相互作用の観点から重要な因子である'πエネルギー'の物理的意味を確定した. [成果3](2)の研究において原子と原子の相互作用を原子軌道レベルで詳細に検討した結果,相互作用に伴う軌道および分子の構造の変形は,相互作用による新たな基底軌道(in-bond orbitals)が作用点の間に生成することによるという新しい考え方を導いた.この考え方を適用することで,有機分子の構造と化学反応の方向性が予測できることを示した.この結果は,相互作用時における薬物分子の構造変化の予測および相互作用の方向を予測する基本的な考え方となるものである.
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