研究概要 |
環境汚染が問題となっている2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(TCDD)は、種々の毒性を表すことが指摘されている。TCDDの毒性作用は、遺伝子発現に変化をもたらす結果として現われると考えられる。 本研究では、まずTCDDによって安定化するmRNAの有無を検討した。その結果、TCDD単回投与後のラット肝細胞質において発現量の増加する50kDaのタンパク質を見出した。このタンパク質のmRNAをクロスリンク法を用いて検索した結果、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)のmRNAがTCDD依存性に安定化していることが明らかになった。 次に、3T3-L1細胞を用いてその脂肪細胞分化に対するTCDDの影響を検討した。われわれは、すでにTCDD暴露によって3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化が抑制されることを報告している(S.Shimba,M.Tezuka et al.,B.B.R.C.(1998))。TCDDは細胞内でアリルハイドロカーボン・レセプター(AhR)と結合して核内に移行するが、このAhRの発現量が脂肪細胞への分化と大きく関連している。つまり、AhRは3T3-L1細胞の脂肪細胞分化を負に制御していることが考えられた。そこで、AhR mRNAのセンス、アンチセンス配列を細胞内に導入したクローンを作製し、細胞増殖や脂肪細胞分化抑制に関連した細胞内情報伝達ならびに遺伝子発現の変化を検討した。AhRを過剰に発現した細胞は細胞増殖(clonal expansion)の抑制が認められ、分化の程度が減少した。この細胞では、脂肪細胞分化に重要な役割を果たす転写因子であるC/EBPαおよびPPARγ2の発現の低下が認められた。また、AhR過剰発現細胞はp42/p44MAP kinase活性の上昇がみられた。 以上の結果は、AhRが3T3-L1細胞の脂肪細胞分化に対する負の制御因子であることを強く示唆するものである。
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