研究概要 |
頻尿・尿失禁の治療薬として汎用される抗コリン剤(プロピベリン,オキシブチニン:Oxy)及びOxyの経皮吸収製剤(MM-801)のムスカリン性受容体へのインビボ結合を明らかにする目的で、ラットに両薬物を経口ないし経皮投与後、経時的に下行大動脈より採血し、膀胱、唾液腺(顎下腺)、心臓及び結腸を摘出した。標識リガンドとして[^3H]NMSを用いる受容体結合測定法により、各臓器ムスカリン性受容体を定量した。またOxy及び活性代謝物(DEOB)の血漿中濃度を測定した。[実験成績及び考察](1)プロピベリン及びOxyを経口投与により、ラット各臓器において[^3H]NMSの特異的結合が有意に減少した。スキャッチャード解析より解離定数(Kd値)の有意な増加が認められ、受容体結合親和性の低下が示された。また、Oxyの投与により、顎下腺及び心臓でのみ、最大結合部位数(Bmax値)、つまり受容体数の減少を認めた。(2)ラット背部にMM-801製剤を貼付後,膀胱を含む各臓器で受容体親和性の低下を認めたが,いずれの臓器でも受容体数には有意な変化がなかった。Oxyの経口投与後の血漿では未変化体とDEOBが検出されたが,MM-801の貼付ではOxyのみ検出され,貼付期間中安定した血漿中薬物濃度が維持された。また,Oxyの経口投与による,各臓器における受容体親和性の低下は血漿中薬物濃度推移と相関する傾向であったが,顎下腺及び心臓で認めた受容体数の持続的減少は血漿中薬物濃度と明らかに乖離した。MM-801の貼付では顎下腺の受容体数が減少しなかったことから,経口投与と経皮投与ではOxyの生体内での受容体結合様式に違いがあると推察された。(3)MM-801の貼付によりラット膀胱の最大排尿圧の有意な低下が認められた。以上の結果から,Oxyは経皮投与により膀胱受容体に可逆的に結合し,経口投与で認めた顎下腺受容体数の持続的な減少を惹起しないことが示され,Oxyの経皮吸収製剤の有用性が示唆された。
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