研究概要 |
本学附属病院において院内感染の流行が終息していない5つの診療科の患者由来の材料並びに医療従事者の手指および鼻腔から分離されたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を対象に,クロモゾームDNAの相同性,コアグラーゼ型別および抗生物質感受性型別による解析を行うと共に,その成績と患者および医療従事者に関する疫学情報を総合して,医療従事者由来の株がMRSAの拡散にどのように関与しているのかを検討し,以下の成績を得た. 1.本学付属病院における5診療科で4年間に分離された215株のMRSAを対象として,本菌の流行状況を解析し,5診療科の全てで4〜6種のDNA型のMRSAによる院内感染の流行が発生していること,流行に巻き込まれていた患者と医療従事者の総数は133名に達していたこと,ある特定のDNA型のMRSAによる流行は診療科の垣根を越えて拡散していたこと,MRSAの中には患者間に広く伝播した流行株と短期間に消失した非流行株が存在すること,MRSAの流行には患者の転病棟やICU入室歴に加え医療従事者を介した起因菌の伝播が深く関わっていたこと等を明らかにした(環境汚染;15,295-305,2000). 2.215株のMRSAの全ては汎用消毒剤に感受性であることが判明したことによって,医療従事者の手指汚染MRSAの除去のために特別な消毒法は必要ではなく,従来の消毒剤を用いた手指消毒を確実に履行することこそが肝要であることが明らかとなった. 3.同一患者から間隔を置いて分離されたMRSAの遺伝学的および細菌学的性状について解析し,同一患者由来のMRSAは同一クローンである確率が極めて高いものの,再感染や遺伝子変異によって異なるクローンが分離される場合もあることを明らかにした(環境汚染;15,285-290,2000).
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