研究概要 |
看護職の専門能力は,卒後臨床に入ってから,多くの経験と時間,研修・指導を得て,得られる能力である。このような専門能力をもった看護職が退職してしまうということは,蓄積された能力,投入された資源を失うという意味から,当該病院・病棟として,きわめて大きな損失である。 平成11年度研究では,専門性育成と退職による損失を経済的に評価しようと試みた。対象病院は,国立の総合病院の3施設,調査対象期間は平成10年度の1年間である。調査票は看護部長用と婦長用を用意した。調査票の回収率は,看護部長調査票は3病院とも回収出来,看護婦長用のそれは,各病院それぞれ,85.7%(14部署中12),100.0%(16部署中16),100.0%(28部署中28)であった。新人ナースに直接・間接に投入した資源,および退職に伴う費用は,(1)リクルート諸活動,(2)新採用に伴う活動,(3)オリエンテーション・研修,(4)新人の生産性減少に伴う支援量,(5)退職に伴う活動,(6)欠員期間の支援量の6項目のカテゴリーに分類し,それぞれの費用を算出後,その合計額を看護職が退職した場合の損失総費用とした。その結果,3つの病院の退職者1人当たり総費用は,それぞれ,1,614,963〜1,637,727円,1,331,503〜1,345,522円,1,386,318〜1,395,682円であった。これら総費用のうち,「(4)新人の生産性減少に伴う支援量」が総費用の84.0〜94.5%と大きな割合を占めた。 平成12年度研究では,優れた看護実践をしていると看護部が判断した「熟練ナース(臨床実習指導を経験している臨床経験5年以上のナース)」18名に面接聞き取り調査を行い,「新人」から「熟練」までの「主観的看護能力ののび」を指標化し,「熟練ナース」が退職して「新人ナース」を採用する際の能力の損失を概算した。その結果,就職してから1年目における「主観的看護能力」は,現在を100%として3.5〜60.0%,平均23.75%(SD13.8)であった。また,現在値(100%)に達するまでの年数は4.3〜21.0年,平均10.5年(SD4.51)であった。
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