本研究において目的としたのは、ガリレオの天文学上の諸発見を彼以降の人びとがどのように解釈し、かつては信奉していたアリストテレスに代表される古代の哲学者、天文学者たちの教義をどのように改変したのか、あるいは否定するに至ったのかを検討することであった。とくにガリレオに敵対していたとされるイエズス会天文学者に焦点を当てることで研究を進めた。 平成11年度については上述の目的を補完するものとして、よく知られたガリレオの天文学上の業績の周辺にあって、今日では無視されているか、あるいはよく知られていない業績のひとつである占星術的研究に光を当てた。占星術は、当時の人びとにとっては天文学の一分野をなし、今日的な意味での彼の天文学的能力の評価と分かちがたく結ばれていたと思われるからである。さらに、クリストファ・シャイナーに代表されるアルプス以北の諸大学で教鞭をとっていたイエズス会士たちに関する文献を収集し、このシャイナーが望遠鏡観測技術と望遠鏡の光学的議論ではガリレオよりも遙かに先を歩んでいたということも明らかにした。 平成12年度は、アルプス以北のイエズス会士たちを中心として、彼らのガリレオ評価、さらにはコペルニクスの地動説に対する評価、および彼らが伝統的な宇宙観をどのように捨てることになったのかという問題を取り扱った。具体的には、17世紀後半のロイヤルソサエティに参加していたイエズス会士たちを取り上げた。 この2年間の研究を通じての結論は、少なくとも研究の対象とした時期のイエズス会士たちについても、ガリレオによる天文学上の諸発見についての彼らの解釈にはアリストテレスの学説や聖書の教えが介入する余地はなかったということである。さらに、彼らが伝統的な宇宙観を捨てることになった過程は極めて短時間で、しかも何らの劇的な事件も伴っていなかったと言わねばならない。
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