研究概要 |
本研究のテーマは,身体を質量を持つ筋骨格系(力学系)と神経系(情報系)が相互に関与しあう複雑なシステムとして捉え,その身体の運動の基盤となる関節まわりの単関節運動の安定性が維持される制御機構を解明することである. 第1年目は,運動にともない生じる求心性情報が周期運動の安定性を維持するために必要であることを,肘関節の周期運動を用いて検討した.実験は,6人の被験者が様々な運動の周波数で肘関節を周期運動させている最中の肘関節角度変化と上腕二頭筋および上腕三頭筋の筋電図をゴニオメータと表面筋電計を用いて計測した.その結果,様々な運動周波で関節の周期運動の安定性が維持されること,関節スティッフネスが運動周波数増加にともない増加することが明らかになった. 第2年目は,肘関節運動の実験で得られた肘関節の運動データを,神経系(情報系)をセントラルパターンジェネレータに,筋骨格系をスティッフネスが変化する剛体振り子としてモデル化し,この2つのシステムの相互作用で再現できるかを検討した.実際のシミュレーションでは,剛体振り子の固有周波数をスティッフネスを変動させることにより変化させ,セントラルパターンジェネレータの発振と,剛体振り子の運動を検討した.その結果,剛体振り子の周期運動とセントラルパターンジェネレータの発振が,剛体振り子の慣性モーメントとスティフネスで決定される固有周波数に引き込まれ,安定な周期運動が生成されることが確認された.この相互作用モデルで得られた結果は,肘関節の実験データを再現することに成功し,よって,身体運動の周期運動の安定は,力学系と情報系の不断な相互作用が基盤となり生成されると考えられる.
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