研究概要 |
スポーツや運動を教材とする体育では,生きた人間である学習者が,教材化されたスポーツや運動と出会う.したがって体育が,学校教育における教科としての独自性を構築しようとするためには,スポーツや運動の学習が人間の生の経験に対して持つ普遍的な意味を明らかにする必要があろう.このような視点に立って,本研究では,(1)人間にとってのスポーツや運動の普遍的な意味を探り,(2)スポーツや運動における自他の問題と体育の本質を示した新しい体育論の可能性について検討した. 平成11年度は,ハンス・レンクが主張する哲学的人間学のアプローチに支えられて研究を進め,スポーツや運動には「人が生きる」という契機が必ずや存在するということ,体育がスポーツや運動を教材として用いるからには,そこで行なわれる学習が「人が生きる」ということを中心に据えたものでなければならないということ,体育の本質はスポーツや運動の学習を通した人間の教育にあるということを明らかにした.平成12年度は,スポーツや運動における他者の問題について検討し,スポーツや運動における自己の達成が他者との連帯に展開しうるということ,スポーツや運動におけるコミュニケーションは自他の連帯と達成へ向けての身体的行為によって可能になることを明らかした.また体育においては,集団によって具体化される共通の意味の存在,その具体化に向けての身体的行為の存在が重要であり,勝敗の意味や集団での達成を学習の目的とする教材が,他者理解のためのコミュニケーションを提供するものへと生まれ変わる可能性のあることが明らかになった.この結果は運動技能の習得や倫理規範の教育を中心に据えた体育論を超えた新たな体育論の可能性を示唆している.
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