研究概要 |
これまで,脂肪細胞に由来するレプチンや腫瘍壊死因子α(TNF-α)などの産生量に及ぼす継続的な運動(9から10週間のトレッドミル運動)の影響についてラット脂肪細胞を用いて検討した.その結果,副睾丸脂肪組織のTNF-αの産生量が運動群で著明に増加し,一方,レプチン産生量は運動群と対照群で有意な差が認められなかったことを明らかにすることができた.さらに,可溶性TNF-α受容体(sTNFR)の分泌とTNF受容体(p55TNFR)量,および脂肪分解反応におよぼす運動トレーニングの影響を中心に検討した.まず,脂肪分解反応はホルモン感受性リパーゼのトランスロケーションによって律速され,トレーニングによってそのトランスロケーション効率が変化する可能性のあることを見出した.さらに,トレーニングによるTNF-αの分泌増加は,、indomethacinとeicosatetraynoic acid(ETYA)によってほぼ完全に阻害されることを明らかにした.この結果は,トレーニングによるTNF-αの放出増加は,プロスタグランジン産生の律速酵素シクロオキシゲナーゼを介する経路の変化に起因することを示唆している.また,トレーニングによって脂肪細胞からのsTNFR産生量と血中濃度は共に著しく減少するが,脂肪細胞のp55TNFR量は著しく増加することも見出した.この結果は,トレーニングはTNF-αの放出を増加させるが,一方でsTNFRの放出を低下させることによってTNF-αの血中での生物学的半減期をが減少させ,TNF-αのエンドクリン作用を低下させるものと考えられる.さらに,p55TNFR量の増加はTNF-αの脂肪細胞へのオートクリン作用を強め,その結果,脂肪分解能の亢進や,細胞サイズの縮小,細胞数の減少がもたらされるものと思われる.
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