研究概要 |
本研究は遺跡・古文書などの史料に残された,比較的新しい時代の噴火活動を,火山地形の分析および火山灰層序学的な方法で明らかにしようとするものである.本研究では,噴火事実の確認,噴火地点,噴火規模,噴火による自然環境への影響を現地調査と史料の分析から検討した.調査は歴史時代の噴火が多数知られる伊豆諸島の火山,北関東の諸火山を中心に行なった.調査の結果,伊豆諸島の御蔵島では,山体を形成する御山火山の最後の噴火と考えられる,約5,200年前の噴出物(杉原・嶋田,1999)直上から泥炭質粘土が堆積し,堆積物の年代は最下部で約3,640yrsBPであることが明らかになった.この堆積物の深度16〜17cm付近には西暦838年に神津島天上山噴火によるIz-Ktが挟在する.堆積物の花粉分析の結果,御山火山の噴出物の堆積が,御蔵島鈴原湿原が形成される要因のひとつである事が明らかになった.北関東の火山では,高原山ヨシ沼湿原の調査を行ない,榛名山二ツ岳から噴出しHr-FPテフラを挟む堆積物を採取した.Hr-FPテフラは北関東〜東北地方南部に分布し,6世紀中葉に噴出したことが知られている.これまでの調査では日光戦場ヶ原,高原山枯木沼,会津田代山,鬼怒沼などの湿原堆積物の深度1〜3mに認められ,テフラの噴出が周辺の森林組成に影響を与えることが明らかにされている(叶内,1998).ヨシ沼湿原堆積物の花粉分析の結果から,Hr-FPテフラを示標とすると,北関東周辺の湿原堆積物の堆積速度には湿原のタイプにより2〜3倍の違いがあることが明らかになった. Hr-FPテフラについては,噴火による被害が針葉樹林と広葉樹林,落葉樹林と常緑樹林など,森林組成の違いにより差があることが考えられるが,これについてはさらに詳しい調査の継続が必要と考えられる.
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