研究概要 |
平成11年度は,西日本の各地でアクキガイ科の貝類を収集して色素の調整と分析を行い,以下の成果を得た。 1.貝の収集 貝類は西日本の8県で採集あるいは購入することができた。島根県から福岡県にかけての磯ではイボニシの生息が確認できたが,個体数は少なかった。九州を南下するほどに,貝の種類と個体数が増えた。沖縄県ではイボニシとアカニシは採集できず,本土には生息しない種類が多かった。長崎県ではイボニシは年間を通じて採集できたが,アカニシは激減してきた。2.色素分析 収集した貝類の鯉下腺は固有の比率で種々の色素を含有していたが,7割の貝類が主成分は貝紫(ジブロムインジゴ)であった。また,同種の貝でも生息地によって色素成分や比率が異なっていた。 平成12年度は,貝類の鯉下腺に含まれる色素を用いて直接染色と還元染色を行い,発色性の違いを検討した結果,新たに以下の知見を得た。 1.直接染色 生貝色素捺染(摺染)において,貝の種類の違いが発色性に及ぼす顕著な影響が認められたが,産地(生息地)や雌雄および季節の違いが発色性に及ぼす影響は認められなかった。アカニシを用いた生貝色素浸染において,雌雄の違いが発色性に及ぼす明瞭な影響が認められ,発色性は雌雄混合浴>雄浴>雌浴の順に強く現れ,これは絹,毛,ナイロンに顕著に観察された。また,貝の産地(生息地)の違いが発色性に及ぼす明瞭な影響は認められなかった。2.還元染色 アカニシを用いた化学建てにおいて,雌雄の違いが発色性に及ぼす明瞭な影響が認められたが,直接染色の結果とは異なり,発色性の強さは雌雄混合浴>雌浴>雄浴の順に観察された。本方法においても,産地(生息地)の違いが発色性に及ぼす明瞭な影響は認められなかった。
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