研究概要 |
調理における食材中の熱移動に関して行なってきたこれまでの事例研究の結果に基づき,さらに一連の加熱操作の際に食材の水分が果たす役割について詳細な知見を得るための研究を継続した.以下に,実施した実験研究の内容と得られた結果を要約する. 1)従来の加熱装置を改良し,食材加熱面から内部一次元方向において測定し得る試料内部温度の位置を10mmまで拡大した. 2)新規に設置した試験機を用い,食材の力学的性質と熱的性質との関係を調査するための予備実験を行なった. 3)極めて多量の水(98wt%以上)を保持する多糖類水溶液ゲル系を金属容器内で加熱したときの温度上昇曲線を観測し,その伝熱機構が多糖の種類に無関係に伝導伝熱によること,各試料ゲルの昇温速度は既に報告した指数式を用いて記述し得ること等の結果を得た. 4)アルギン酸Naおよびコーン油を小麦粉ドウと混合して水分量を広範囲(10〜82.5wt%)に変え得る食材モデルを調製し,その伝熱機構を「蒸し」,「茹で」,「天火」,「揚げ」,「金属容器内での加熱」等の調理法のもとで観測した結果,食材モデルの昇温速度は全ての場合に既報の指数式に適合する一方,「揚げ」および「金属容器内での加熱」では指数式の時定数と食材モデルの熱拡散率との間に相関関係が成立することを見いだした. 5)食材成分の相転移と食材全体の熱移動との関係を調べるため,脂質成分の融解,寒天ゲルのゾル転移,鶏卵タンパク質の熱凝固,小麦粉ドウの熱膨張を取り上げ,これらが食材の昇温機構に影響する状況を観察し,温度上昇曲線に吸熱的転移による不規則な変化が現われること,ベーキングパウダー添加ドウの熱膨張理象が昇温遠度を著しく加速すること等の結果を得た.
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