研究概要 |
本研究成果の概要は次の通りである。 まず第一に,戦後アメリカから多量の科学教育に関する文字情報及び映像情報がわが国に移入された。本研究では,文字情報の受容という視点から,わが国の初等理科教育革新の一端を担った米国コロンビア大学教授クレイグ(Craig,Gerald Spellman)の著作を取り上げ,翻訳出版の経緯と同書の基調をなす理科教育論を明らかにすることによって,同翻訳書が,戦前・戦中の科学教育観から戦後の民主主義的科学観への転換に果たした役割について考察した。 第二に,先行研究において,わが国の小学校理科教科書『小学生の科学』(1949)作成時に参照された米国教科書のうち,パーカー(Parker,Bertha Morris)著作の『基礎科学教育シリーズ(The Basic Science Education Series)』の影響が大であることが認められた。本研究では,パーカーの人物に焦点を当てて,彼女が活躍したシカゴ大学実験学校の科学カリキュラムやパーカーの科学教育観,パーカーによる単元構成モデルなどを明らかに,パーカーの科学教育に関する理念と実践の特質について考察した。 第三に,一連の研究過程において,占領期には米国から理科教育に関する文字情報だけでなく,映像情報もわが国にもたらされたことが判明した。従来の理科教育研究では,CIE映画の実態についても不明であり,映像による米国科学教育情報がどのようにわが国で受容されたのかという点については未踏同然であった。今回,徳島県立文書館に多数のCIE映画が所蔵,保管されていることが分かり,これらを調査し,理科教育に関する映像情報のうち,CIE映画に焦点を当てて,CIE映画がわが国の理科教育にもたらした影響について論究した。
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