研究概要 |
第I章では,小学校3年生のものに限ってではあるが,道教委が正統的学校知として示したところがどれほど受け入れられているかを,「物語」論を手がかりに記述を括り直し,検討した.その結果,次のことが明らかになった.すなわち,「物語」論によって括り直したときには,道教委が示した正統的学校知を十全に受け入れている市町村は7.52%であり,道教委が示した「物語」はほとんど受け入れられていないということである.アイヌ民族について触れた記述を(3年生レベルでは)もっていないという副読本が36.84%あるところからするなら,「アイヌ民族について小3では教えなくともよい」という判断の方が道教委の指導よりも広く行き渡っていることでもある. 第II章において問題としたのは,「アイヌ=滅亡の民」言説に対抗し得るような言説を,子どもたちが構成するための基礎になり得る知識が副読本にみられるのかということであった.本研究においては,そのような知識として<「開拓」がアイヌ民族の状況をいよいよ窮迫へと追い込んでいったというもの>と<現在もアイヌ民族の言語や文化を継承して民族としての誇りをもって生きていこうとしている人たちがいる>という二つであるという作業仮説を立てた上で,そうした記述の存否そしてまた類似記述の質の検討を行ったのである.その結果,前者に関して言えば,それは未だ道教委によって正統的学校知として認めてられてもおらず,また19市町(14.3%)で教えられているにすぎない,ということが明らかになった. 第III章においては,ある優れた副読本記述が生まれる過程において,行政と運動団体との間で何があったかを明らかにしようとした.その結果、明らかになったのは行政側の担当者の<誠実な姿勢及び学問的成果を大切にしようとする姿勢>と運動団体側の担当者における行政として対応できる限界の認識及び交渉相手に対する信頼感>そして他市町村の副読本の動向、この3つがうまくからみ合って一定のレベル以上の記述が生まれたということであった。
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