研究概要 |
本研究は,子どもはすばらしい学習力をもつ存在であるという観点から,算数・数学のカリキュラム開発を行うことを目的とする。そのためにGattegnoの教育論に注目し,その理論を考察した。その結果,Gattegnoは子どものすばらしい学習力を,すべての赤ん坊が誕生後2・3年もすれば身に付ける母国語習得力の中に見いだして,それを教育の基本とみなし,各個人の中に存在する自己(self)による,自己のための自己教育こそ,真の教育とみなし,精神の力に基づく認識論という,氏に固有な認識論を展開する。氏の教育原理の1つである「指導を学習に従属すること」は,まさにこのような子どもの学習力を生かす教育に他ならない。 子どもの自己教育力を算数・数学学習に生かすためには,Gattegnoの教育哲学「awarenessだけが教育可能である」に注目しなければならない。子どもは生得的に「何かに気付く」力をもっているのであるから,算数・数学教育の仕事はそれを数学へ方向付けることである。Gattegnoはこの立場から,例えばCuisenaireの色棒を用いた算数・数学の授業展開例を示しているけれども,それらは日々の授業で使用できる程には精緻化されておらず,概括的であいまいである。そのために,それらを我が国の算数・数学教育の現状に合う形に修正することによって教材開発を行い,それを我が国の小・中学生に実験授業を行った。その結果はGattegnoが言う程の指導効果を上げることはできなかったけれども,我が国の算数・数学教育の問題点の1つである原子論的指導理念に基づく指導を打破する,1つの方策を得ることができた。
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