研究概要 |
多次元の添字を持つ実数値確率変数は確率場と呼ばれる.本研究では連続確率場の最大値の分布理論とその統計推測,とくに多変量推測統計への応用に関する研究を行った.最大値の分布はチューブ法あるいはオイラー標数法と呼ばれる積分幾何的アプローチによって上側裾確率の形で求めることができる.扱う問題は添字集合が滑らかな閉多様体である正則な場合と滑らかでない場合,すなわち添字集合が特異点を含むような非正則な場合とに大別される.後者の方がその数学的取り扱いが難しいが,その場合においても添字集合が局所的に凸ならば添字集合が滑らかな正則な場合とほとんど同様の議論が展開できることを示した. また多変量解析への応用として,2元順序カテゴリカルデータにおける独立性仮説の検定のための尤度比検定統計量の漸近帰無分布を導出した.行と列の一方または双方が順序尺度で分類されている2元順序分割表のモデリングとして提案されてきた方法の一つに,列と行のスコアに順序制約を仮定し対応分析型のモデルをあてはめるという方法がある.本研究で展開した一般論を適用することにより,尤度比検定統計量の漸近帰無分布を実用上十分な精度を与える漸近展開の形で導出することに成功した.またその分布を数値的に計算するための計算機プログラムを整備した.効率的に最尤推定値を求めるためには繰り返しニュートン法と分枝限定法が有効であることが判明した. ところで本研究課題を通して用いている積分幾何学的手法(チューブ法)は,確率場の最大値の分布理論のみならず,統計決定理論,とくに推定理論に用いることができることも明らかになった.具体的には,超曲面あるいは凸体へ射影する縮小型推定量で,射影先の曲率に応じて射影率を調整する推定量を構成することができた.
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