研究概要 |
最近の摩擦構成則による数値シミュレーションの結果によれば,プレート境界は地震時に高速にすべるだけでなく準静的にもすべっており,それは特にカップリング域の先端付近で顕著となることが予測されている.東北地方太平洋沖においてこの準静的すべりを地震観測から捉え,かつその付近の物性を解明することが本研究の目的であった. 本研究により,小繰り返し地震(small repeating earthquake)が東北地方太平洋沖で発生していることが明らかになった.この小繰り返し地震データを用いてプレート境界における準静的すべりの時空間分布を詳細に明らかにすることに成功し,カップリング域の深部先端付近では,プレート間相対速度と同程度の速度で準静的すべりが進行していることが明らかになった.これは,カップリング域と非カップリング域の間の遷移領域を地震学的に捉えたことに相当する.GPS観測点は陸域にしか存在しないため,海溝付近での準静的すべりの状況を調べることはGPSデータ解析では困難であるが,小繰り返し地震解析からは,三陸沖の海溝付近ではかなり頻繁に準静的すべりが発生していること,また,M6以上のプレート境界型地震はすべて大規模な余効すべりを伴っていることも明らかになった. 海溝付近の構造についても知見が得られつつある.海底構造探査の結果と地震活動の比較により,沈み込んだ海洋性プレートのLayer2の不均質性が地震発生の状況を支配しているというモデルが提示され,また,海底地震観測による高精度の震源分布と構造探査の結果との比較から,三陸沖ではプレート内部で発生している地震がかなり多いこともわかってきた.これらの結果は,プレート境界のカップリング状況が,プレート境界面の性質のみならず,ある程度厚みをもった領域に支配されている可能性を示唆している.
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