研究概要 |
KrFエキシマレーザを用いたパルスレーザ堆積(PLD)法により,窒素ガス雰囲気中でTiを,また真空中でグラファイトをアブレートし,シリコン及びガラス基板上にTiN,DLC薄膜を堆積させた。このとき,パルス幅20μs,電圧-0.5〜-6kVの負高電圧パルスをレーザと同期して基板ホルダーに印加することにより,プラズマプルーム中のイオン種を加速した。パルス印加の堆積膜の特性への影響を,EPMAによる膜組成分析,膜の光学バンドギャップ,FTIR,ナノインデンテーション,AFMなどを用いて調べた。同時に発光分光分析法及び二次元レーザ誘起蛍光法によりプラズマプルームを計測した。 パルス電圧印加によりTiN膜は組成比N/Tiが0.5からほぼ化学量論比の1.1へ増加し,抵抗率も30mΩ・cmから7mΩ・cmまで低下し,膜中へのNの取り込みが促進されることがわかった。 DLC膜においては-0.5kVのパルス電圧の印加により,膜の光学バンドギャップは1.0eVから1.3eVへ増加し,-3kVを印加した場合は逆に0.8eVに減少した。FTIR測定の結果,印加パルス電圧が大きいほど,sp^3C結合(1160cm^<-1>)による吸収が大きくなった。膜の微小硬度測定の結果,-0.5kVのパルス電圧を印加した結果,印加なしの場合よりも10倍以上の硬度を示し,表面形状も,より平滑となった。発光分光分析の結果,パルス電圧印加によりTi^+,N_2^+,C^+などイオン種の励起,加速が確認された。LIFによるC_2及びC_3分子密度分布の測定の結果,C_2,C_3の運動エネルギーは小さく,アブレーション後,ターゲット表面近傍に数μs後まで存在することがわかった。生成されるC_2分子数は入射レーザエネルギーフルエンスの増加や,印加電圧の増加により減少した。 PLDによる成膜においてパルス電圧印加は,堆積膜の透過率,表面の平滑さ,膜硬度などの改善に有効であることがわかった。
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