研究概要 |
南西北海道および北東北地方,さらに山形と岡山県下の硫化物および硫黄を産出した鉱山について,鉱山排水中の硫酸イオンと母岩硫黄の硫黄同位体比を測定した. 鉱山排水中の硫酸イオンは硫酸バリウムとして回収し,酸化ヴァナジウム熱分解法によって二酸化硫黄とし硫黄同位対比を測定した.鉱物試料に含まれる硫化物は過酸化水素水で,元素硫黄はParr Bombで酸化分解し,硫酸バリウムに変換した.同位体の測定は岡山大学固体地球研究センターで行われた. 南西北海道と北東北地方の鉱山は,同位体比と鉱物の産状によって大きく2群に分けられた.すなわち,同位体比の変動幅が小さく,黒鉱や脈状の硫化物を産出する鉱山では,排水中の硫酸イオンは硫化物よりも0.1から2.9パーミル軽く,硫化物の自然酸化過程で負の硫黄同位体分別作用がはたらいていることが確認された.しかし,硫黄酸化細菌の寄与は確認できなかった.一方,黒色塊状硫化鉄鉱や天然硫黄を産出した鉱山では同位体比の変動幅が大きく,排水中の硫酸イオンは,母岩硫黄に比べて重い場合もあり,軽い場合もあった.酸化過程における硫黄同位体分別作用は確認できなかった. 山形県の多金属硫化物鉱床の硫黄同位体比は正の値を示したが,岡山県下の黄鉄鉱を伴う猟石鉱床では負の値を示し,同一鉱床内でも変動が大きかった.いずれの場合も鉱山排水の硫黄同位体比は硫化物よりも軽く,酸化過程で同位体分別が起こること示唆されたが,硫黄酸化細菌の単離同定・培養はできなかった.
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