研究概要 |
環境の変化や汚染の程度を調べるために指標として従来使われているものにはさまざまなものがあるが,調べようとする環境問題に対して通常は安定に保たれていることが必要である。本研究では地衣類を環境指標として用いることができるかどうか調べるため通常の地衣類中の元素濃度に注目して詳細な分析を行った。 地衣類は菌類と藻類が共生している特殊な植物で、世界各地のさまざまな気候条件で生息している。その生態は太陽の光と水から藻類が作り出す栄養源を菌類が利用するもので、それ以外に外界からほとんど栄養源を必要としていないので、土壌や岩石などの地衣類の着生している器物には依存していないとされている。そこで、まず,どのような種類の地衣類が指標になり得るかを調べるために、全国各地で地衣類を採取し,その同定を行った。その結果,樹枝状地衣のハナゴケ類縁の種、および葉状地衣のウメノキゴケ類縁種が全国的にも安定して生育していること,採取が比較的容易なことから候補として選んだ。採取場所,種,属、着生器物による違いを調べるために,約20種の地衣類を全国で採取した.採取した場所は約40地点、試料数は約100点の試料を採取した。これを、洗浄した後,種を形態的特徴と種に特異な地衣成分を呈色反応,顕微科学的方法,紫外線照射法,博層クロマトグラフィーを併用して同定した。試料の一部を立教大学原子力研究所の気送管,日本原子力研究所の原子炉JRR-3の気送管で中性子照射することによって、地衣類中の元素濃度を中性子放射化分析で定量した。また、蛍光X線分析によって,硫黄,鉛などの元素の分析を行った。一部の試料は日本原子力研究所の原子炉JRR-3の即発ガンマ線分析装置で法の定量を行った。また,乾燥したハナゴケ,キウメノキゴケなどを直接ガンマ線検出器で測定し,^<137>Csの分析を行った。 その結果、約20種の元素について、場所による違い,種,属による違いなどについて調べることができた。結果についての考察は現在検討しているところであるが、同じ場所で採取した同じ属の地衣類は種が違っても元素濃度に大きな変動は見られないことなどがわかった。また、特別に環境中の元素濃度が高い地点では地衣類にそれが反映されることがわかった。
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