研究概要 |
骨形成因子(BMP2)とレチノイン酸(RA)が交感神経細胞に協同的に作用して,神経栄養因子応答性を誘導することを見いだした.続いてBMP2/RAにより神経系に特異的に誘導される遺伝子を検索し,新規タンパク質,BRINP(BMP2/RA-Inducible Neuron-specific Protein,推定分子量,約88kDa)を見いだした. BRINP-mRNAは,中枢及び末梢神経系特異的に発現しており,脳においては胎生後期より発現が検出された.成体の脳内では,嗅球,大脳皮質,海馬,さらに中脳部分の幾つかの神経核などに発現が強く検出された.BRINPのC末に対する抗ペプチド抗体を作成し,蛋白質レベルで発現を解析した結果,BRINPは脳,脊髄等の神経系に特異的に発現し脳では胎生後期より発現が検出され,mRNAレベルでの発現パターンとよく一致した.また培養交感神経細胞においてBMPとRAによる誘導が確認され,神経線維の表面に存在が検出された. BRINPは,既知の蛋白質と相同性を有しない全く新規の蛋白質であり,その直接の機能は未知である.そこでBRINP遺伝子欠損マウスを作成し,個体発生と生理機能の変化を解析することとした.マウスゲノム上のBRINP遺伝子の構造を解析して,翻訳開始ATGを含む第2Exonを同定した.そしてこの周辺の相同な配列と挿入ネオマイシン耐性遺伝子を持つベクターを作成して,相同的組み換えを行いBRINP遺伝子をノックアウトしたマウスES細胞を得た.このES細胞をマウス初期胚に注入して発生させたキメラマウスを得た.キメラマウスを用いた交配によりヘテロノックアウトマウスが得られた.続いて完全ノックアウト(ホモノックアウト)マウスがまもなく得られると予想される.ホモノックアウトマウスの形質,特に神経の発達異常,機能異常を解析すると共に,他の生化学的,細胞生物学的実験を組み合わせることにより,BRINPの機能が明らかになると考えられる.
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