研究概要 |
これまで蛋白リン酸化酵素PKNファミリーのメンバーとして、各組織に普遍的に存在するPKNαとPRK2の二つのアイソフォームの存在が明らかになっていたが、申請者らは、本年度の研究により、PKNの新たなアイソフォームを同定しPKNβと名づけた。PKNβは、PKNαやPRK2と同様、低分子量GTP結合蛋白質Rhoとの結合性を有していたが、さらにその制御領域内に、SH3蛋白質の結合コンセンサス配列を含むプロリンの豊富なストレッチを有しており、増殖因子受容体の下流で、Rhoとは異なるシグナルも同時に受けている可能性が考えられた。ノーザーンブロットおよび免疫化学的解析から、PKNβは、正常組織にはほとんど発現が認められず、腹瘍細胞系列において有意な発現を認めることがわかった。また、PKNβは、PKNαと異なって種々の腫瘍細胞系列において、核あるいは核周囲のゴルジ体に局在することも明らかになった。酵素学的解析から、PKNβは他のPKNファミリーのメンバー同様、自己リン酸化活性およびPKCと比較的似た基質特異性を示したが、しかしながら不飽和脂肪酸に対する反応性が他のメンバーに比べて乏しかった。これらの事実は、PKNファミリーの多様性を示すものであり、今後PKNβの生理機能に関する研究をすすめることにより、種々の増殖因子シグナルのクロストークや、転写制御、癌化のメカニズムの解明に寄与する可能性もあると考えられた。これらのデータは、Biochem.Biophys.Res.Commun.261,808-814,(1999)に報告した。
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