研究概要 |
G-CSF刺激依存の分化誘導に伴う増殖抑制機構を解析するために、好中球前駆細胞GM-I62Mあるいは32Dcl3細胞をG-CSF刺激後、細胞周期調節因子および好中球分化誘導への関与が示唆されている転写因子PU.1,C/EBPα,C/EBPεの遺伝子発現をNorthern blotで検討し、G-CSF刺激による増殖抑制機構への関与を検討した。CDK阻害因子p21WAF1は発現量に変化なく、p27KIP1,p19INK4Dは発現が誘導された。一方、転写因子C/EBPα,C/EBPεの発現は上昇したが、PU.1の発現量は変化しなかった。したがって、G-CSF刺激依存の増殖抑制には、p27KIP1,p19INK4Dの発現が関与していると考えられた。また、C/EBPα,C/EBPεがp27KIP1,p19INK4Dの発現を制御している可能性が考えられたため、不活性型C/EBPεを強発現した細胞株を樹立しp27KIP1,p19INK4Dの発現に対する影響を検討する。 一方、分化誘導能の欠損したG-CSF受容体発現株では発現せず好中球へ分化する細胞株ではG-CSF刺激により発現する遺伝子をスクリーニングしたところ、数種類の遺伝子を同定した。そのなかでSTAT3遺伝子およびERO1-L遺伝子について解析した。G-CSF刺激依存にSTAT3タンパク質はリン酸化され活性化し種々の遺伝子の発現を誘導するが、STAT3自身の遺伝子の発現が誘導されSTAT3タンパク質がさらに生成される事が明らかになった。これによりSTAT3活性化による好中球分化誘導のシグナル伝達がさらに増強されるものと考えられる。ERO1-L遺伝子産物はER内で生成したてのタンパク質にジスルフィド結合を形成させる酵素であり、G-CSF刺激で好中球分化時に誘導される殺菌性タンパク質MPOなどの立体構造形成をうながすためにERO1-Lが誘導されることが示唆された。
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