研究概要 |
ヒト・カルシトニン(hCT)の構造と会合体形成の,溶液のpHとアルコール,特に六弗化-2-プロパノール(HFIP)の濃度に対する依存性を,多様な生物物理学的手法を用いて調べた。濃度20μg/mlの溶液中のhCT構造を,試料溶液のpHとHFIP濃度を変えて調べた。ランダム・コイル,α-ヘリックス・モノマー,α-ヘリックス・オリゴマー,アミロイド様会合体の4つの構造状態が同定された。中程度の量のHFIP添加が,hCTの会合に対して著しい効果を示すことが分かった。4.8以上のpHでは,中程度のHFIP濃度の溶液中で急速に会合体が形成される:pH7では,5-15%H:FIP溶液にhCTを溶解すると,僅か数分以内で会合体が生成する。これは,(1)hCT分子上の正味電荷の減少によって分子間クーロン斥力が減る,(2)中位濃度のHFIPの添加が,会合の開始に必要なhCTのα-ヘリックス構造を安定化するが,(3)結果としてできるα-ヘリックス・オリゴマーが,より大きな会合体に容易に転換され得るように,必要以上には安定化されないという,3つの効果が組合わされたことに因るものである。逆にHFIPを含まない中性溶液中では,10mg/mlという非常に高いhCT濃度でも,hCTが線維状の会合体を形成するのに1時間以上も掛かる。
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