研究概要 |
1.マウス神経芽腫細胞(NS-20Y)にグルコシルセラミド合成酵素阻害剤PDMPを添加すると、その濃度に依存してS期細胞の減少とG0/G1期細胞の増加がみられた。この細胞の主要な中性糖脂質であるlactosylceramide、globotetraosylceramide、主要なガングリオシドであるGM1、GD1aなどを添加しても細胞増殖の回復は起こらなかった。一方、スフィンゴ糖脂質を単独で培地に添加した場合、GM1には明らかに細胞増殖に対する抑制効果が認められ、対照と比べS期細胞の減少とG0/G1期細胞の増加を引き起こすことが分かった。 2.スフィンゴ糖脂質が合成される経路で様々な段階に特異的に作用する阻害剤を用いて、NS-20Y細胞の増殖と細胞表面ガングリオシドGM1の発現に対する効果を検討した。その結果からNS-20Y細胞においては新たに合成されたsphinganineよりも、スフィンゴ脂質が加水分解を受けて生じたsphinganine, sphingosineを再利用する経路の割合が塙く、GM1の一部はスフィンゴ糖脂質の部分的な加水分解を経てゴルジ体で再利用されていることが分かった。 3.マウス神経芽腫細胞について表面糖鎖の検出とその機能の解析を目的に、各種レクチンとの反応性を標識レクチンを用いてフローサイトメトリーによりスクリーニングした。L-Fucに特異性を示すレクチン群には少数の細胞のみが反応性を示した。Gal・GalNAcに特異的なレクチン群およびMan・Glc・GlcNAcに特異的なレクチン群は神経芽腫細胞の表面糖鎖と良く反応するものが多かったが、反応性には大きな差がみられた。シアル酸に特異性をもつレクチンではイヌエンジュレクチン(MAM)がマウス神経芽腫細胞(NS-20Y, Neuro2a, NlE-115)及びラットPC12細胞と良く反応し、Siaα2-3Ga1糖鎖の存在を示した。 4.神経突起の伸展に対するレクチン添加の効果を検討したところ、無血清条件下でのNS-20Y細胞からの神経突起の伸展をMAMレクチンは1μ9/ml以上の濃度で強く抑制することを見いだした。また、同時に細胞の形態にも特徴ある変化が観察された。この効果はMAMレクチンに特異的であり、MAMレクチンの細胞表面シアル酸への結合が神経突起の伸展を抑制する現象は、ガングリオシドの機能を追求する上で大変興味深い。
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