研究概要 |
小脳プルキンエ細胞に特徴的に高発現している神経特異カルシウム結合タンパク質のNVP3について,蛋白化学的性質,細胞内分布,発達・老化にともなう発現変化,遺伝子解析,遺伝子欠損マウスの作製と解析を目標とした. 平成11年度は,マウスNVP3遺伝子のクローニングと構造解析を行い,ノックアウトベクターを作製,ヘテロ遺伝子欠損胚性幹細胞を得た.これら細胞を用いてキメラマウスを作製し,F1マウスにヘテロ遺伝子欠損マウスを確認した. 平成12年度は,ヘテロマウスの交配からホモマウスを得た.ホモ遺伝子欠損マウスは外観上正常に発育し,繁殖能力,行動リズムなどに変化は認めなかった.また,運動能力においても通常飼育環境下では著変は認めなかった.小脳・脳幹部の免疫組織化学的観察から,相同タンパク質の代償性の発現増加は認めなかった.光顕レベルの観察では,組織・細胞構築にも変化は認めなかった.一方,大腸菌発現NVP3の解析から,アミノ末端がミリスチン酸で修飾されており,1分子あたり3分子のCa^<2+>を結合すること,結合定数が10^6程度でミリスチン酸修飾基を有することで結合の協調性を示すこと,ミリスチン酸修飾基を介して細胞膜と可逆的に結合することなどが示された.NVP3の細胞内分布では,樹状突起から細胞体,軸索まで細胞全体に発現していた.発達に伴う発現変化では,シナプス形成を開始する生後14日目頃より細胞体に発現し,成熟を終える28日目頃には成熟個体と同等の発現を認めた.老化に伴う発現変化では,シナプスの形態・機能マーカーが2年齢頃より減少するのに比較して,1年齢頃の早期より発現が低下していた. これらのことから,NVP3はプルキンエ細胞のシグナル受容とシグナル伝達の両機能の維持に働いている可能性が示された.今後は,電顕レベルの細胞構築,刺激応答性,協調運動学習能力などについて検討していく予定である.
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