研究概要 |
動脈硬化の発生・進展と力学的因子の関係を総合的に明らかにするためには,流れが内皮細胞に及ぼす影響だけでなく,血管壁内の応力・ひずみ分布を精密に知ることが必要不可欠である.そこで本研究では,家兎胸大動脈に実験的に動脈硬化を発症させ,その局所の力学場を詳細に知るために,組織標本から計測した局所の血管壁形状と加圧に伴う血管壁局所の変形を組合せて計測することを目標にして2年間の研究を進めてきた.まず始めに家兎胸大動脈局所の弾性係数をピペット吸引法で計測し,また組織像と局所弾性率の関係を定量的に調べた.その結果,動脈硬化組織は泡沫細胞が集まった病変の初期状態では正常血管組織より柔らかくなり,その後,病変部への平滑筋細胞の出現,石灰化組織の出現により硬化することが判った.次に加圧に伴う血管壁の変形を詳細に知るために,血管壁にマーカーとなる微小針をほぼ90°間隔に4本刺し,加圧に伴う針の位置や向きの変化を血管軸方向から観察して,加圧に伴う血管壁の変形を血管壁を4分割した領域についてそれぞれ調べた.そして,組織標本から計測した局所の血管壁形状と加圧に伴う血管壁局所の変形を組合せて,生理的状態におけるひずみ分布を推定した.またヒト冠動脈に関しても同様の計測を行った.その結果,家兎胸大動脈において動脈硬化血管は加圧に伴い円周方向に一様に膨らむのではなく,場所によりひずみに差のあることが明らかとなった.このひずみの不均一さは病変が進行するにつれて大きくなる傾向にあった.また,ヒト冠動脈ではプラークの厚い領域ほどひずみが小さい傾向にあることが明らかとなった.以上より,動脈硬化血管は不均質であり,動脈硬化血管壁内の力学場を正確に知るためには弾性率,ひずみともに局所的な計測が必須であることが示された.
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